“その渋々行った卒業式も終わりかけたころ、右翼団体が「国歌を歌わない教師はいねがー!」と君が代を大音量で流しながら街宣車を学校の前まで乗り付けてきた、なまはげかよと思った。
すると卒業生のあるクラスの担任教師がおもむろに立ち上がり、トラメガを持って雪の残る校庭へ出て行った、そして校門前につけてある街宣車に向かって話しかけ始めた。

「本日はお足元の悪い中、本校を巣立つ生徒たちを祝福にいらしてくださり、まことにありがとうございます。わたくしは3年2組の担任をしております、理科教師の○○と申します。卒業生、在校生一同に成り代わり、お礼を申し上げに参りましたっ!先ほどからご指摘いただいております国歌斉唱を行わない教師でございますが、そ れ は わ た く し で す!」

街宣車から「日教組の手先がー!」というヤジが飛んできた。しかし全く動じず彼はさらに声を大きくして「なぜならばっ!」とヤジを一喝した。

「岩石の微細な亀裂に雨水などがしみこみ、温度変化によりその水分が膨張し亀裂を広げー・・・(長かったので略)このようにして巌はさざれ石になっていくものであり、これは何億年という地球の地殻活動の中で営々と続いてきたことであります。間違ってもさざれ石が寄り集まり年月を経て巌になるわけではないのです!苔が生そうとも!苔の生すまで!わたくしは理科教師です。大学では地学を専攻しておりました!そして自然科学の理を手に生徒を教え導くことを職務とする者であります!そのわたくしが科学の真理に反することを生徒たちの前で肯定できましょうか!もう一度繰り返します、さざれ石がー巌となることはないのです!そ の 逆 は あ っ て も !苔の・・・」

「わかった!もうわかったから!日教組のせいで歌わないんだってことにしといてくれよ!」と言いながら去っていこうとする街宣車、そして助手席から顔を出した一人が

「おい○○!お前昔っからそうだな!だからまだ嫁が来ないんだよ!」と捨て台詞を吐いて去って行った。”
— こけのむすまで : 漂流生活的看護記録 (via clione)