10月18日

バイク便をやめて3ヶ月がたちます。愚痴っぽいの嫌だからやめた時も何も書かなかったんだけどいいだろ。書く事ねえし。やっと最近になって夜中に事故る夢見て跳ね起きる事もなくなりました。

バイク便を始めた動機は簡単でした。給料が良くて、僕に出来る事と言ったらこれくらいだったからです。つらかったです。結構バイクに乗っていた僕でさえ最初の一週間は腰が痛くてたまりませんでした。良く二年もやったもんだ。

僕の場合、完全歩合制というのでやっていました。売り上げの45%が僕の取り分です。大体一日やって15000円ぐらい。調子がいいと20000円を超える事もありました。今は不景気で絶対無理だろうけど。しかし仕事が出なくて暇な日は5,6千円と言う事もありました。まさにギャンブルです。

基本的に雨も台風も雪の日もありません。逆にそんな日の方が稼ぎどきなので無理しても出るんです。ある知り合いが言ってました。「雨が降ってると外でるの嫌だからすぐバイク便たのんじゃうんだよ」確かにね。毎度有り難う。そういう仕事です。

事故は当然多いです。皆急ぎますから。歩合だと急いで届けて次の仕事に向う時間が短ければ短いほど仕事の本数がこなせて稼ぎに繋がるわけですから。僕がいた会社では月に30件ぐらい起こってました。毎日誰かが事故ってる勘定になります。何百人もライダーがいるうちの30件ですから実際多いのかどうか良く分かりません。僕は二年間で一回だけ事故りました。これはかなり幸運な方です。

事故るのは大体新人です。事故というのはうまいへたより確率の問題です。どんなにバイク乗るのがうまい人でも事故る時は事故ります。だけどその確率を下げる事は出来るんです。それを可能にするのは唯一経験です。

毎日、朝も昼も夜もなしに仕事で走るというのは、通勤通学や週末のツーリングとは根本的に違います。それは試行の回数の違いです。あるサイコロがあるとします。事故の目が出るのは普通の場合一回サイコロを振る事によって決定されるとします。しかしバイク便の場合このサイコロを何十回も振らねばならないと言う事です。

そしてこの事故の確率を下げる為には無意識のスタイルと言うものが不可欠です。これは口でどうこう言えるものではありません。体で覚える類のものです。その上で意識して注意を払う事により、事故の確率はより0に近く下げられます。何回も振らねばならないサイコロならば、せめてその目が出る確率を下げてやるんです。

この努力を怠ったものは、手痛い代償を己の体で覚える事になります。あのバイク便の高い(今は安い)給料は自分の指や腕や足、そして命の値段だと言う事をよく分かってない為です。

出してはいけない局面、場所で出したスピード及び不注意はかなりの高確率でそれを行った者に罰を与えます。今迄なら幸運で回避できた事も試行の回数が違うのですから。いずれ破局は訪れます。僕といっしょに入った人は青山で事故って死にました。ベテランライダーでしたけど。その知らせを聞いた時、自分がもしそうなったらと想像してとても嫌な気分になりました。

バイク便をやめて3ヶ月がたって、冷静に少し考える事ができました。昔はあまりこんな事考えなかったけど。たぶん縁起を担いでいたんだと。こんな弱い事考えたら事故ってしまうと思っていたんです。

だけど不思議な事にあまりつらかった事って憶えてなくて。天気が良くて高速を走ってて田舎だから他に車が走ってなくて。緑豊かで奇麗で。空気が新鮮で。そんでバイク止めて自動販売機でコーヒー買って。雲一つなくって今日も暑くなるのかななんて考えたりしてて。

憶えてるのはそんなことばっかだったりするんです。不思議ですね。